高橋、佐藤両氏とも、2019年TURE-TECHでは自治体側の事務局を務め、提言採択後は、学生からの提言を実施する役割を担う。
コロナ禍で世の中が大きく変化する中、学生と市が一体となって実現可能な施策を検討し、ふるさと納税の寄付額の更なる成長を目指した取組みを実行してきた。
2019年度、宮城県東松島市で行われたTURE-TECHでは、学生に5つのテーマに取り組んでいただきました。ふるさと納税のさらなる成長に向けた戦略施策、東松島市への移住定住促進戦略、奥松島の観光客増加のための分析・施策の検討、被災元地区の土地利活用戦略、小野地域の直売所(ふれあい交流館)の自立運営化…。いずれも、東松島市が抱える重要な課題です。この中で、採択された提言が「ふるさと納税のさらなる成長に向けた戦略施策」でした。
東松島市のふるさと納税の寄付額は、県内の上位自治体の寄付額の50%以下。そこには、明確な差が存在していました。この課題に対して私たちは、返礼品の品目数を増やした方が良いのかもしれない、ポータルサイトの利用数を増やそうか…等といった検討を進めようとはしていましたが、改善策について具体的に掘り下げて議論を行うことは、まだできていない状態でした。だからこそ、TURE-TECHには大きな期待をしていました。
学生からの提言の鍵となったのは、「課題の特定」です。一つ目の観点は、データ的な根拠から特定された課題。利用ポータルサイト数と返礼品の品目数が競合自治体と比較して少ないという点。そしてもう一点、“市内関係者間で、ふるさと納税に対する期待、想いが共有できていない”という点です。ふるさと納税の推進を行う委託業者、現在ふるさと納税に参画してくれている事業者、そして私たち市職員…、これらの関係者それぞれ、ふるさと納税には期待をしているし、市を良くしたいという想いを持っている。しかし、その想いが関係者間でバラバラになってしまっていて、方向性がそろっていない、という指摘を受けたのです。これは、私たち自身には気づくことのできていなかった、我々の根幹にある重要な課題でした。
学生が情熱をもって現地の関係者にヒアリングを行い、考え抜いてくれたからこそ特定することができた本質的な課題。この課題が浮き彫りになったという点だけでも我々にとって大きな価値のあるものでしたが、課題に対する施策も非常に説得力のあるものでした。
具体的な提案は5つ。
-
利用ポータルサイトを増やす
-
返礼品の品目数を増やす
-
返礼品を梱包する段ボールのデザインをより温かみのあるデザインにする
-
お礼状のデザイン、構成をより温かみのあるものにする
-
ふるさと納税事業者や異業種との交流会(定例会)を実施する
❶、❷は、新規納税者の獲得施策、❸、❹はリピーター獲得のための施策。そして、❺は、関係者が参加する定例会に学生が参加し、ファシリテーションから想いの発信まで行うこと。関係者が各々に感じている不安や不満を払拭しつつ、関係者のふるさと納税への期待、そして想いを共有することを目的とした提案です。ふるさと納税チームの提言が採択された後、予算や実態についても十分に吟味したうえで、何をどのように実施していくのか、何度も学生と協議を重ねました。その結果、❸の「お礼状をより温かみのあるものにする」こと、❺の「定例会に学生が参加し、本質的な課題の解決に向けた取組みを行う」こと。まずはこの2点から実施していこうと決めました。
しかし、その後、新型コロナウイルスが流行し、私たちを取り巻く環境は一変しました。難しい状況の中、定例会の参加については予算の確保・訪問日程の調整までは行ったものの新型コロナウイルスの流行によって残念ながら中止となりました。「学生が定例会への参加のために東松島市に来てくれたら、観光案内もしたいね」と、私たちも話をしていたのですが、それもすべて叶いませんでした。
結果、取組むことができたのは「お礼状の刷新」のみとなってしまいました。しかし、学生の皆さんはこの状況にめげることなく、唯一実施することが叶ったこの取組みに全力を傾けてくれました。紙面の構成、デザイン等について繰り返し案を練り直し、オンラインでのミーティングを重ね、想いが伝わるお礼状を作り上げました。「東松島タイムズ」という東松島市の様々な情報を学生が手書きで書き上げたお礼状は、東松島市の観光スポットの紹介や地域の特徴、SDGsの取組み、そしてふるさと納税の使い道、編集後記として学生メンバー全員の写真と自己紹介、学生たちがこのプロジェクトを通して抱いた東松島市への想い…。完成までに約1年という時間をかけ、温かみのあふれる、手に取った方が思わず読みたくなるようなお礼状ができあがりました。
TURE-TECHを通じて、私たちは様々なものを得たと感じています。たとえば、プロジェクト提案の際の課題の掘り下げ方、構造的な部分に焦点を当て、課題解決策を導き出すプロセス、仕様書の作成の仕方…。プレゼンテーションの技術的な面においても、様々な学びがありました。私たちが置かれている構造的な問題について、見つめ直すきっかけにもなったと感じています。さらに、寝る間を惜しんで議論を交わし、真剣に東松島市の未来を考えてくれた。その姿にも心を打たれましたし、職員一同、大きな刺激を受けました。
TURE-TECHの担当職員が感じたこと、得た学びについては、全職員に情報共有を行いました。それくらい、非常に学びの大きい濃厚な経験でした。
そして、もう一つ、TURE-TECHが私たちにもたらしてくれた大きな価値は、未来を担う優秀な学生の皆さんに東松島市のことを知ってもらえたこと、東松島市のファンになってもらえたことです。直接東松島市に来てもらえる機会は少なく、オンラインでのやりとりが中心になってしまいましたが、濃密な時間を通じて、学生の皆さんと深いつながりを持つことができた。これは東松島市の未来につながる大きな財産だと感じています。
学生、事務局、サポートメンバー、関係者全員が一切の妥協をせず、圧倒的当事者意識をもって課題に取組む。その情熱がTURE-TECHのすごさ。全力でプロジェクトを支え、この機会をつくってくださった、ソフトバンクさんにも心から感謝をしています。