2007年ソフトバンクBB株式会社入社。ビッグデータやAI開発のチームをリード。現在は、子会社である株式会社Agoop取締役 兼 CTOとしてAI・ビッグデータ技術と経営の両輪を担う。第一回目のTURE-TECHにメンターとして参加。参加チームの提案が採択され、出向している子会社の株式会社Agoopにてソリューションを実現。
関係者全員が、
熱を帯びた言葉で議論を交わし
奈良井宿の未来を考え抜いた。
私は、「奈良井宿のインバウンド交流人口増加策」チームのメンバーのメンターとしてTURE-TECHに参加し、インターンシップ中のサポートと、採択後のPepperソリューションのプロジェクトマネージャー、データ分析等を担当しました。私自身、前進プロジェクトであるMICHIKARAに参加した経験があります。MICHIKARAは、様々な企業の社員が参加して、地域の課題に取り組むリーダーシッププログラムでしたが、TURE-TECHは、学生が塩尻市の課題に向き合うというプロジェクト。
第一回の開催ということもあり、学生ならではのアイディアが生まれてくるのではないかという期待がありました。実際、学生がなんのバイアスもなく、本気で提案を行ったからこそ、学生にしか成し得ない大きな価値が生まれました。これが、本プロジェクトの成功の要因になったと私は考えています。
1つは、彼らの提案が市長を動かし、市長肝いりのプロジェクトとなったこと。これは、地域振興などのプロジェクトにおいてはとても重要なポイントです。そして、もう1つは学生が本気で課題に向き合う姿が、市役所や観光協会の方たちの熱意をも引き出したこと。さらに、最新技術を活用し、データ収集を行ったという点も、奈良井宿の未来に影響を与える重要なポイントでした。
学生たちの想いが詰まったバトンを
受け継いだからこそ
高いハードルを乗り越えられた。
チームの提案が採択されたということは、このプロジェクトが、塩尻市のプロジェクトとして実際に動き始めるということです。翌年の観光シーズンまでにはPepperを配置し、データの収集をスタートさせる必要がありました。
プランを実現するためには、技術的な実装はもちろん「データ収集」という本来の目的を実現するため、アンケートに答えてもらうためのモチベーション設計にこだわる必要があります。ただPepperがいるというだけでは、誰もアンケートに答えてはくれません。訪日外国人が求めるのは、それぞれの人の目線に立った現地の情報です。だからこそ、学生たちが外国人留学生を奈良井宿に呼び、彼らの目線で見た奈良井宿のパンフレットを国籍別に作り分けました。
そして、このパンフレットをすぐに捨てられてしまう「チラシ」にしないため、観光客の方の写真入りにすることで「あなたのためのパンフレット」であることを演出するというアイディアも追加しました。さらに、八折りになるよう設計することでポケットに入れやすいサイズにすることにもこだわりました。細かく設計されたこれらすべての企画を実現していくことが私の役割でした。
しかし、実現にはたくさんの課題がありました。私が取締役を務めるソフトバンクの子会社であるAgoopは、位置情報とビックデータを扱う会社なので、Pepperの開発を経験したことのある技術者は一人もいません。しかも、Pepperの開発を行うには、資格試験を受けなければならないということも分かりました。前例のない取組み。手探りのスタートでした。
まず、Pepperの開発試験に合格しなければ何も始まりません。試験には万全を期して、3名で受験しました。開発スタート後も、苦難の連続でした。Pepperに観光客の写真撮影をさせたりプリンターと連携させることなど、多くがはじめての試みでした。
撮影した写真をパンフレットの素材と合成するためのプログラムを自分で書いて実装させたり、当時は対応可能なプリンターも少なく、印刷速度や色にもこだわる必要があるため、プリンターを複数購入して実際に試験を行ったり…。外国語対応にも苦戦しました。本プロジェクトでは英語、日本語、中国語、韓国語、4つの言語に対応するという想定だったのですが、当時、Pepperは韓国語には対応していなかったのです。そのため、韓国語については、発話ライブラリから一語一語、音声ファイルを作成していくという地道な作業も全て私自信が主体となって行いました。
数々のハードルを乗り越え、約半年の開発期間で無事にPepperによるデータ収集スタートまで漕ぎつけることができたのは、学生たちや奈良井宿の方たちの想いが詰まったバトンを受け継いだという背景があったからだと感じています。彼らからのバトンタッチがなければ、短い期間でこれだけ多くの障壁を乗り越えることはできなかったと思います。学生が本気で考え込んでつくりあげた提案。その想いを組んだからこそ、うまくバトンがつながり、私も粘り強く取り組むことができたのだと感じています。
今、新型コロナウイルスの流行によって、Agoopがメインビジネスとして携わっている人流データが様々な場面で活用されています。「自粛」は孤独な闘いですが、一人ひとりのその取り組みの成果を定量的な数値で測ることができたら、みんなで共通の目標をもつことができるようになる。データには、そういう力があるのです。観光分析にしても、災害分析にしても、関係者が共通の目標をもつことができる。それがデータのもつ力です。
本プロジェクトは、人的コストをかけず、Pepperを活⽤してファクトを掴み、関係者全員が共通の目標を持ち、健全な議論ができる状況を実現させました。
データがなければすべては「単なる仮説」にしか過ぎず、「それを検証する」すべもなく「効果測定」もできません。現状を正しく把握することが、未来の創造と⾰新につながる、ということを実証することができた事例になったのではないでしょうか。
現在、本プロジェクトは3年間のデータ収集期間を終えました。これからは自治体の方々がこのデータを元にした施策を実行していくフェイズに入ります。本プロジェクトが、塩尻市全体がデータドリブンな自治体へと変化していくきっかけになれば、と願っています。
・「Pepper」の名称、ロゴはソフトバンクロボティクスの登録商標です」
・「ソフトバンクロボティクスの人形ロボットPepperを活用し当社が同時に実施しています」